六本木の夜
地上22階の部屋から見下ろす夜景は、思ったよりもキレイじゃなかった。
生まれ育った港町から見ていた夜景のほうがやっぱり好きだ。
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東京に住むその男とは、4年前にツイッターで知り合って、一晩一緒に過ごした。
インターン中に風邪で高熱を出し、ホテルの部屋でひとり、心細く寝込んでいた私を見舞って、あたたかいスープとパンを届けてくれた優しい男だった。
京都生まれの品のいい顔立ちで、ひょろっと背が高くて色白。ちょっとこっちには少ない風貌の男。
中年にさしかかっているとは思えない、女のようにきめ細かくてすべすべな肌が印象的で、手を握った瞬間から、体のどこかがぴったり合うような予感がした。
その夜の記憶がお互い忘れられなくて、再会の機会をずっとさぐっていたのが、やっと実現したのだった。
「今度、東京へ行きます。金曜の午後から」
「じゃあ午後休み取るから一緒に過ごそう。アークでご飯たべてホテルに戻ろう」
4年ぶりに、明るいところで会ったその人は、黒縁メガネの長身で、やっぱり変わらず素敵だった。
もうアラフォーになったのか。そりゃあたしもアラサーだもんな。
積もる話を2時間ほど。スタバでコーヒーとチャイをテイクアウトして部屋へ戻る。
なんだろう、このしっくりくる感じ。
4年前、たった一度寝ただけの男なのに不思議。
下りエスカレーターで、前にいる私を後ろからやさしく抱きしめて「待ってた」ってささやいてくる。
腰が砕けそうになるからやめて。笑
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テーブルに向かい合い、コーヒーと私が持ってきたお土産をつまみながら喋る。
そう、この人とは普通に話していても面白いから困る。
外国旅行と語学が好きで、文系脳ってところも共通しているもんだから、気が合うこと合うこと。
おしゃべりで終わってしまいそうな気がして、私は彼のひざの上に移動した。
「あたしも会いたかった。あの夜が忘れられなかった」
「俺もだよ」
ああ、このキス。とろけるように優しい舌使い。
なんでそんなに上手なんや。
中心からあふれて濡れている。もうだめだ。脳みそがとけていくこの快感。
清潔なシーツの上に押し倒される。
まずはストッキングから脱がされ、スカートをまくりあげられ、下着も剥ぎ取られる。
この人、ものすごくクンニが上手で、歴代ぶっちぎりトップのテク。
吹きまくりながら一回目の昇天。
服を着たまま挿入。
あまりの気持ちよさに、一流ホテルということも忘れてあえぎまくってしまう。
吹きすぎて濡れそうなので服も全部脱いで交わる。
騎乗位で二回目の昇天。
このへんから記憶が怪しい。ろれつが回らない。
「ちょっと休憩しようか?」
と止めてくれ、腕枕でしばらく気を失ったように眠る。
いくと眠くなるの、なんでだろ。
ぱちっと目を開けると、その人は「寝顔ずっと見てた。いとおしくてたまらない」
そういってまた私の全身を舐める。
舌でクリを舐めあげつつ、中指で優しくGをこすってくる。
これされたらすぐいっちゃう。
3度目の昇天、腰はえびぞりで全身を張り詰めさせる激しさ。
もう気持ちよすぎて涙出るわ、潮でシーツはびしょぬれだわ、ベッドも枕も大変なことに。
「最後は顔みながらいかせて」
正上位で彼は私に全部を放出した。
長い長い射精で、びくんびくんするのを感じながら私はもう死んでもいいと思った。
そのまま私の上でぐったりするその人の柔らかい髪の毛をなでながら、私ははじめてその人の奥さんに嫉妬していた。
こんなに体も心も合う人が、もう誰かの夫なんて。
「どうしてxxさんは結婚してるんだろうね?笑」
「なんでだろうね。笑」
xxちゃんと20代で出会って痛かったなあと彼はつぶやいた。
その頃私、10代だけどね。笑
きっと、お互い責任がないから体だけにのめり込めるんだろうな。
家賃とか光熱費とか食費とか親戚づきあいとか子育てとか、そういう日常がからまない関係だからこその。
やっぱりこの人と会ってよかった。
こんなに素敵なセックスができる人と、この世でひとり出会えたことに感謝。
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ふりかえると、自分の性欲の強さに突き動かされ、振り回され、コントロールできない自分に嫌気がさしたことも多かった20代だったけど。
30を目前にして、性欲との付き合い方が少しわかってきたような気がする。
30代はうまく乗りこなしていけそうな予感が、なんとなくある。
素敵な思い出をそっと集めていけたらいいな。
次、この人といつ会えるかはわからない。もう2度と会えないかもしれないけど。
また会う日まで、私のこと忘れないでいてくれたら嬉しい。