非常によろしくないね。
よろしくない。
この関係は、非常によろしくない。
嫁にいきたい私と、家庭のある先生。
なのにどんどん、先生の占める割合が増えていってる。
このまま先生の比重が増えてったら、ほんとに婚活しなくなっちまうなあ。まずいな。
いやしかし、好きなもんを嫌いになるのはいとかたし。
ずっと恋焦がれてた人だから、あともう少しでいいからこのままでいたいと思ってしまうのだ。
いつか終わりがくることはわかってるんだ。
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一年後にね、なんて言ってたけどやっぱり二人とも我慢できなかった。
二ヵ月後に会う約束をした。
先生からのメール(LINEじゃないところがまたときめく)や着信があると心臓が一拍すっとばす。
「仕事中にごめんね。今夜、電話できる?
子供が寝てからだから、23時過ぎるけどいい?
ちょっと聞きたいことがあって、できれば直接話をしたいから」
こんなこと言われたらもう、飲みは一次会で切り上げてさっさと帰宅してケータイの前に正座。
ワンコールで出ますよ!
って、23時ぴったしにかかってきたせいで動揺し、間違えて「切」押すという慌てぶりに、我ながら苦笑する。
あらためて私から掛けなおしたりして。
お家はそんなに広くないからと、車にいるんだとか。
「この二日間、なんかぼーっとしてたよ。連休ボケってことにしてごまかしたけど」
同じくです。
私も仕事に身がはいらなくて、しかもなんか熱まで出してた週末。知恵熱ならぬ、恋熱。こんなの初めてだよ。
「今度、1x月xx日にそっちに行けそうなんだけど、会えますか?」
もちろんです。何が何でも予定空けときます。
チケットとったから、一緒にxx見に行こうって。
前夜からうちにお泊りして一緒に行く予定。
「ああよかった。まだだいぶ先だけど、これを楽しみに生きていけそう。」
私もだ。
奥様のお許しが出たそうで、確定の連絡も頂く。
ああああもう楽しみすぎて死ぬ。
高尚的要死!!
授業中も、隣でも電話でも、先生の声はいつも素敵だ。
それを伝えたら、ものすごく照れて、わざと低めの声など出して私を喜ばせようとしてくれる。
いつものように先生は饒舌で、楽しく話しているとあっという間に2、30分が経過していてあわてる。
先生は、これまで風俗遊びもしたことがないし、パートナー以外とのセックスも経験がないという。
私が「意外とできるっしょ?」と笑いながら聞くと、いや俺はやっぱり体だけってできないなあと。
「結婚してる俺の状況でこんなこと言うとすごく薄っぺらくて嫌なんだけど、好きだよ」って。
悩ましげな声で言ってくれるところがたまらなく好き。
先生は、自分の気持ちを正確に言葉にしようとしていつも悩ましげである。
そこに先生の頭の良さと誠実を感じて、私はもっと先生が好きになってしまう。
下の名前で呼ぶようにするね、とも言ってくれた。
先生は先生のままでいいらしい。
あああもう私、このとき死んでもいいと思った。
私何回死ねばいいんだ!
お互い、周りの誰にも言えなくて頭がうわーってなりそうだね、と話した。
連絡を取るのは基本、会う前や用事があるときだけにしよう。
でも、頭が壊れそうになったらかけてもいい?って。
私も、周りの友達の誰にも言えないからきっとそんな時が来ると思う。
「彼氏見つけて、幸せな結婚してほしいと心から思うよ。でも具体的にそれを想像するのはものすごく嫌だ。」
そんなもんだよね。
私も、奥様以外の女性と親しくしている先生を想像するのはすごく嫌だから。
私以外には絶対作らないよ、とは約束してくれたけど。
あったかくてまっすぐ素直に気持ちをぶつけてくれる先生がとても可愛い。
他の人に嫉妬する気持ちや、私をかわいいとほめてくれる口ぶり、先生の頭を抱いてあげると嬉しそうに目を閉じている様子、すべてまっすぐに見せてくれる先生がかわいい。
年とったら、余計な見栄やかっこつけがなくなるのかもしれないな。
かわいいかわいい先生。
私もあの頃よりはずいぶんまっすぐなボールを投げられるようになった。
これから終わりが来るまで、一瞬一瞬を心に刻んでいきたい。
いつか終わるんだから、と言うと先生はとても悲しそうに怒っていた。だから先生の前では言わないけど、いつもこれが最後、と思って会おう。
誰も傷つけないように、傷つかないように、毎回大事に。
戻る場所のない私は先生よりも怖いから。